『マンマ・ミーア！ヒア・ウィー・ゴー』封切りまであと2日となりました。当サイトでは毎日「サウンドトラック」に沿って、ABBAの名曲を解説していきたいと思います。
その第十八弾は「ザ・デイ・ビフォア・ユー・ケイム」。ABBA8枚目アルバムLCD『ザ・ビジターズ』に収録されています。
劇中ではカットされていますが、サウンドトラックではメリル・ストリープが披露しています。
「ザ･デイ･ビフォア･ユー･ケイム」 THE DAY BEFORE YOU CAME
ABBA九枚目のアルバムにするはずが、どうにもこうにも楽曲制作が間に合わず、その代わりに〝ABBA結成一〇周年〟を祝して『ザ・シングルズ―ザ・ファースト・テン・イヤーズ』を発売。その最新シングル第一弾としてリリースされたのがこの作品。題名を見れば一目瞭然。「あなた（恋人）と出会う前の私は毎日毎日、同じ時間に出勤、同じ仕事、帰宅しても同じことの繰り返し。そんなごくごくつまらない生活だった」。だがアグネタが歌うと、単なる女性の日常を、リスナーに訴えかけるように伝わってくるのは不思議だ。まるでミュージカルを観ているようだ。
当初のタイトルは「傷ついた鳥」、それが「風」になり、ようやくこの題名に落ち着いた。
バッキング・トラックはベニーの演奏するシンセサイザーとドラム･マシンで統一され、非常にシンプルに作られている。筆者が訳したABBAの全歌詞の中で、最も「詩的」には意訳することもなく、すんなり訳せた作品だった。間奏の「アー」と言うコーラスはフリーダの声。「ビデオ・クリップ」を観ただけではわからないが、後にTV出演した時にはフリーダが間奏箇所で披露しているのがわかる。
一九八二年十月十八日に正式リリースとなった「ザ・デイ・ビフォア・ユー・ケイム」は実は〝ABBAとして最後にレコーディングした〟作品だ。最後のリリースは「アンダー・アタック」だが、戦略的にこちらを先にシングル・リリースした。これには当時、日本のファンも驚きを隠せず「私、ABBAファンやーめた」と言う人たちを筆者は目の前でたくさん見てきた。当時高校生の僕は何がなんだかわからなかった。
フィンランドでの最高二位を筆頭に、スウェーデンとベルギー、オランダでは三位、スイスでは四位、西ドイツとノルウェイでは五位といった具合に、好調なチャート･アクションを見せる国がある一方、肝心のイギリスでは最高三十二位という低調ぶり。そのほか、オーストラリアで四十八位、フランスで三十八位、メキシコで十九位、ジンバブエで十四位という残念な結果に。常にチャート上位に食い込んでいたオーストリアで十六位、アイルランドで十二位という結果も痛かった。アメリカでもチャート･インすらしなかった。
この低調ぶりは第一に世間がABBAをキャッチーで明るい曲を歌うグループだと勘違いしていたこと。しかしリリースしたのは真逆のABBA後期特有のダークさが漂う作品。あまりのギャップにファンはABBAから離れていった結果が大きい。第二に、当時はマイケル・ジャクソンやマドンナが世界的にメインになる手前の時期で、様々なロックやポップスが花開いた時だった。リスナーは常に新しい作品に興味を示す。ABBAはその当時の世界の流れから外れた曲を出したのではなく、さらに進んだ作品を出したつもりだったのが、たまたまヒットしなかっただけ。事実、ABBA活動停止後、九二年『ABBA・ゴールド』を発売し、世界的にABBAブームが起こり、さらに、九九年、ミュージカル『マンマ・ミーア！』開演で、再びABBAを見直す時になって初めて、この作品の凄さが多くのファンに理解されるようになった。ABBAは時代を少し早く行き過ぎていた。
ちなみに、ABBAがレコーディングでドラム･マシンを使用したのはこの一曲のみ。また、五分四十六秒という演奏時間も、彼らのシングル曲としては最長記録。
ザ・デイ・ビフォア・ユー・ケイム＊歌詞翻訳
8時には家を出ていたに違いない
いつもそうだから
きっと時間通りに私の乗る電車は駅を出てしまったと確信した
私は街へ向かいながら朝刊を読んでいたに違いない
編集の仕事はもう終わっているだろう
私は眉をひそめたに間違いない
9時15分ごろにはデスクについていたに違いない
読まなければならない手紙、サインを待つ書類の山に埋もれて
12時半頃にはいつもの場所へランチを食べに行ってたに違いない
葡萄酒がついて、その液面は静かでゆれることもない
雨が降り出したに違いないことに私はちょっとして気がついた
あなたが現れる前の日のこと
2時半に私はその日7本目のタバコに火をつけてたに違いない
気づけば30分たっていた
時間は飛ぶように早い
私はその日の仕事を面倒臭げに続けていたに違いない
何にも気を取られずに、自分の殻に閉じ篭って
5時には帰宅していたに違いない、ルールに例外はないから
決まりきったことばかり、学校を出て以来ずっと同じことの繰り返し
帰宅の電車では、間違いなく夕刊を読んでいたに違いない
エエ、確かに普通のフレームを通して見れば
私の生活はうまくいってる
あなたが現れる前の日までは
8時頃には玄関をあけていたに違いない
そしてチャイニーズ・フードのテイクアウトを買うために
途中で止まっていたに違いない
きっと、テレビで何か見ながら夕食を食べて
私が見たこともないダラスのエピソードなんてこれっぽっちも考えないで
10時15分にはベッドに入っていたに違いない
睡眠が多く必要だから、私は10時までにベッドに入ることにしている
メラニーフレンチの最新刊か、
それ風の何か他の物を読んでいたに違いない
私には目的のない生活感なんて
変に思えて仕方がなかった、あなたが現れる前の日までは
電気を消して、あくびをしてたに違いない
そして又、一夜丸くなって眠りにおちていたに違いない
屋根の上ばらばら音がして、私は一人で雨の音を聴いていたんだわ
あなたとめぐり逢っていなければ
